風かおる

葉室 麟 著 風かおる

 

 面白いです。

 「菜摘」は三歳の時、同じ藩の「竹内佐十郎」のもとに養女に出された。佐十郎はわけあって致仕したために離縁されて実家に戻った。実家で三年ほど過ごし、七年前に十六歳のときに鍼灸医の「佐久良亮」に嫁した。亮は菜摘を娶ると瓦町に鍼灸医の看板を掲げた。

 鍼灸医とはいっても亮は針治療だけではなく、長崎で修業した蘭方医だ。

 菜摘は夫の亮から指導を受けて、鍼灸術だけではなくオランダ医学にも通じるようになっていた。亮は四年ほど教えて菜摘の腕が確かなものになったと見て、自分の代診とした。若く美しい菜摘が診療を行うようになると博多の町人は喜んで詰めかけた。亮は菜摘に診療所をまかせて、再び長崎に行ったのが一年前である。菜摘は不用心なため、実家から弟「渡辺誠之助」を呼んでいた。

 「稲葉千沙」は十六歳で、眼科医を営む稲葉照庵の二女で、身なりは総髪を束ねて後ろに垂らし、着物に袴を穿いて小刀を腰に差していた。千沙は菜摘を姉のように慕っていた。千沙は、千沙の父が菜摘先生に診てもらいた患者がいると言う。

 千沙の案内でその患者を診に行く。平尾村の待月庵に住む「多佳」のもとに居た。そこに居た患者は、菜摘が三歳の時に養女にもらわれて、十年間親子であった養父佐十郎であった。佐十郎は江戸詰めだったおり、妻の「松江」が幼馴染の藩士と密通して駆け落ちしたため、妻敵討ちのため致仕して国を出ていた。

 佐十郎が戻ったのは、果し合いのためだという。

 

 ここまでが前置きで、いよいよ物語が始まります。

 

 

✰✰✰✰✰

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