橘花抄

葉室 麟 著 橘花

 

 著者は、蜩ノ記直木賞を受賞しているが、その前年に出版されたこの橘花の方が、私は優れていると思う。文庫本が発刊されたので購入し再読した。

 父 村上庄兵衛 が切腹し、十四歳の 卯乃 は立花重根に引き取られる。重根は藩主黒田光之の側近として永年仕え、光之が次男である綱政に藩主の座を譲ってからは、隠居付頭取を務めており、二千百五十石の身分である。四年が穏やかにすぎた。卯乃が十八歳になった時、後添えにどうかと聞かれる。重根はこの年、五十歳である。卯乃はすぐに答えられなかった。父のように慕っていたし、身分が違いすぎると思った。

 卯乃は父の祥月命日に墓参りに行き、後添えになることを報告する。寺の門前で中年の武士とすれ違った。「村上庄兵衛の娘御か」と問われそうだと答えると、「真鍋権十郎と申す。今日は命日なので墓参りに参ったが」と述べ更に「そなたの父が切腹せねばならなくなったのは、あの御方のせいだぞ」と言う。 御方とは前藩主光之の長男 黒田泰雲で、父 庄兵衛が仕えていた。「泰雲様に不審の動きありと大殿様の耳にいれたのは重根殿だ。その時庄兵衛殿は自害した。養育されたのを恩に着ているかもしれぬが、心にやましいさがあってのことだろう」

 卯乃にとって懊悩の日々がはじまったのである。卯乃は突然何も見えなくなった。失明したのである。重根の続母で、重根の異母弟になる峰均と住んでいる、りく の所へ静養に行くことになる。その後、卯乃は泰雲の娘であることが判る。

 

 前藩主光之が生きているうちは抑えられていたが、光之の死後、現藩主の網政とその兄泰雲の抗争、それを押しと止める立花重根、峰均とそれを守る卯乃、りく 等の物語である。

 

 

 

 

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