乃南アサ 著 六月の月
大変面白いと思いました。
「杉山未来」は、三十二歳、独身、派遣で三年働き、契約切れで今日退職した。家に帰り、祖母と祝った。祖母と二人暮しだ。大学教授をしている父は、家族を連れて福岡にいる。
未来が帰宅したとき、祖母はうたた寝をしていた。そして『夢を見ていた』と言った。その夢は、祖母が幼少の頃の話であった。
『空が抜けるように青くて、真っ白い入道雲、いくつもいくつも、もくもくと湧いていてね』、『六月だったんだわね』、『海に行こうって』、『花を見に』、
祖母の生まれた町の話であった。そしてそれは台湾であった。そして台南である。
祖母の父は、製糖工場の技師をしていた。
祖母は、終戦の時、高等女学校に行ってて、数えで十七だった。
日本は戦争に負け、日本の植民地だった台湾の町から離れたのだった。
そして。祖母は言った。
『もしたった一つ、願いがかなうとしたら、あの家に帰りたい』
未来に見せるために、祖母は写真を探しに、二階に上がろうとし、階段がら落ち、骨折し、入院した。
こうして、祖母に代わり、未来は台南へ旅立つ。
ここまでがプロローグで、以下六章あります。
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