トレイシー・アン・ウォレン 著 甘い蜜に溺れて
舞台は、1817年となっています。2007年発行です。私には大変面白かったです。
原題は、”His Favorite Mistress" です。”Mistress” 三部作の第三作目です。第一作の五年後の設定です。
「ガブリエラ(ガビー)・セント・ジョージ」は、シリーズ第一作で登場した「バート・セント・ジョージ子爵」の庶子である。
ガブリエラは、父親の仇と狙う「レイフ・ペントラゴン」を射殺しようと屋敷に忍び込んだ。『レイフ・ペントラゴン、覚悟を決めて罪を償いなさい。』男は肩をこわばらせて、ゆっくりとふり向いてガブリエラを見た。
ガブリエラは、そのとき初めて男の顔をはっきりと見た。そしてその端正な顔立ちに思わず目が釘付けになった。高い頬骨にすっと通った鼻筋をしている。秀でた額とがっちりしたあご、は古くから続く名家の血筋を感じさせる。あの官能的な唇を見れば、女は進んで罪を犯そうとするだろう。肌は浅黒く、伸びはじめたひげがかえって男の色気をかもしだしている。どこを取っても非の打ちどころのない顔立ちだが、そのなかでもとくに印象的なのは目だ。吸いこまれるようなその目は、少しくぼみ、混じりけのない青をしている。濃紺といってもいいほど深みがありながら、同時に夏の海のように明るく澄んだ色合いだ。その瞳がいま、まっすぐこちらに向けられている。ガブリエラをじっくり観察し、どんな人間かを読み取ろうとしているらしい。ガブリエラもまた、男の顔から目を離さなかった。
つぎの瞬間、ガブリエラははっとし、悲鳴に似た小さな声をもらした。『ペントラゴンじゃない!』
男は、「ワイバーン公爵 アンソニー(トニー)・ブラック」であった。
トニーはガブリエラの手首をつかみ、銃をもぎ取った。そしてその背中に両腕をまわした。トニーは顔を少し斜めにし、間髪を容れずにガブリエラの唇を奪った。そして彼女を降伏させようとするように、ますます激しくキスをした。
ガブリエラがキスをするのは初めてだ。ああ、なんて素敵なんだろう! 手足から力が抜け、全身がとろけていくようだ。こんなことはいますぐにやめるべきだと、頭のどこかで声がするが、体は反対のことを命じている。トニーに唇を開かされると、肌がかっと火照って全身がぞくりとした。-----
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