公爵シルヴェスターの憂い

ジョージェット・ヘイヤー 著 公爵シルヴェスターの憂い

 

 本書は1957年、ジョージェット・ヘイヤーが五十四歳の円熟期に書かれた。ジョージェット・ヘイヤーは、リージェンシー物(1811~1820年)の元祖である。もっともジェーン・オースティンが本当の元祖であるが、オースティンの作品は、彼女が生きた時代の話であり、後世にかかれた本書とは異なる。

 公爵は、広大な土地を持ち、数多くの人を雇っている。イギリスには公爵は十数人ほどしかいない。そんな公爵には率直にものいえる人間はあまりいないから、自然に ”傲慢” になる。ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』の『ダーシー』のように。

 

 本書の「シルヴェスター公爵」は二十八歳、独身、母親の公爵夫人には、本心で愛想が良い。母に、『結婚しようかと思っている』と言う。母親は驚いた。息子は女遊びが大好きで、愛人ーそれもかなり金のかかるーを囲っていた。正式な結婚よりそういう生活の方が好きと思っていた。『いい家の生まれで、同じ階級であること。美人よりも理知的であることが重要。でもある程度の美しさは必要。母上のように気品がないと困ります。候補は五人に絞られました。』。シルヴェスターは五人の名前を挙げた。『それで母上、誰にしましよう。』。公爵夫人は『求婚はよしなさい。あなたは愛していない。愛していないなら結婚を申し込むのはやめてちょうだい』。

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 ジルヴェスターは、「フィービ・マーロー」という令嬢に恋をする。ジルベスターは、公爵夫人に言う。『美人ではありませんが、活気に満ちた彼女は魅力的です。頭に浮かんだことをすぐに口にしてしまう。生意気で、社交上のたしなみがない。すぐに腹を立てるし、あまりにも率直だし、ーーーいとしいんです。』。公爵夫人はジルベスターがフィービに恋をしたと知った瞬間から、彼女を好きになろうと決めた。公爵夫人はフィービを呼ぶ。公爵夫人からみても、フィービは表情豊かな灰色の目以外魅力的なところがなかった。花嫁に不可欠な特性を冷静に数えあげていたジルベスターが、この娘でなければ満足できないと決めたのなら、母親の予想を超えて、息子は女性に深く心を奪われたということになる。かっての息子の発言を思い出して声をあげて笑ってもいいと思った。

 

 

 

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