地に巣くう(弥勒シリーズー6-)

あさのあつこ 著 地に巣くう(弥勒シリーズー6-)

 

 このシリーズには特徴があるように思います。

 『酒は人を狂れさせも、誑かしもしない。人の本性を暴くだけだ。大工は日頃から女房に倦んでいたのだし、手代は吝嗇な主を憎んでもいたのだし、浪人は行く末の目処さえ立たない日々を叩き斬りたかったのだ。酒は分別の皮を剥ぎ、穴を開け、裂け目を作ったに過ぎない。斬首となった三人は土壇場に引き出される前に、己の本性に思い至ったのだろうか。目を背けただったろうか。』

 『先刻まで、紅色の牡丹の根元に死体が一つ転がっていた。さほど広い庭ではないが、一角には紅牡丹の人群れが咲いていて、目を奪う。真昼のうららかな光の中で漆黒の蝶が舞うたびに、花弁が揺れるたびに、光は漣となって見る者の目を晦ました。打掛の紋様にしてもおかしくない豪奢な光景だ。

 死体さえ、なければ。』

 『江戸にきて自らの来し方を振るい返ったとき、清之介は生まれて初めて立ち竦むほどの怖気に襲われた。怨みでなく、怒りでなく、どんな理由もなく人を殺した罪に肌が粟立った。己の空疎、投げ捨てられた瓶子よりも空っぽな姿にさらに打ちのめされる。』

 上記の例文の様に一つの現象、一つの心持ちを、いろんな単語、難しい読み、を多用し語るのが特徴と思います。

 

 本篇は、北定町廻り同心「木暮信次郎」の父親、「木暮右衛門」の死、何故死んだのかが明かされる。

 

 

 

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