トリダシ

本城雅人 著 トリダシ

 

 トリダシとは「鳥飼義伸」の渾名である。鳥飼はスポーツ新聞のデスクである。当番デスクの日には、記者に電話をかけまくって、特ダネを要求する。記者が出せる記事がないと言い訳すると『とりあえず、ニュースを出せ』と電話を切る。陰でトリダシと言われている。

 本書は七章からなるが、トリダシは主役であるが表面では活躍しない。各章違う人物が主役となるが、陰の主役はトリダシである。

 第一章は、東大文三出の女性記者「細谷香織」が主役である。香織はトリダシに『準備は出来ています。明後日の紙面でいけます』と秘かに囁く。香織はその日に原稿をトリダシに出した。

 記事の内容は、三十七歳プロ十五年目の投手「倉見健次郎」の引退である。

 倉見は四年前には最多勝のタイトルをとったエースである。香織は倉見から『僕、今年でやめるから。僕が良いと言うまで書かないでくれ』と言われる。この二年近く、野球を理解しようと必死で仕事をしてきたのをみて、自分一人に教えてくれたと感激した。倉見宅には三回、取材した。行く度に、リビングに招き入れられた。元女優で、香織と同い年のだという妻「里佳」に香織は気に入られた。里佳の兄は香織の先輩だった。香織は里佳にも取材し記事にしていた。倉見から『明日書いてのもいいぞ』と言われ、トリダシに電話した。

 翌日の試合に行き、他紙の記者が気付いているか注意したが、他紙はまだ倉見の引退を嗅ぎつけていない様だ。しかしスーツ姿の男と目があった。いままで見たことがないが、記者に間違いない。聞くと香織と同じ会社の一般紙社会部の記者だという。香織はトリダシに電話して、社会部の記者が来ていたことを伝えた。

 翌朝の新聞には香織の『倉見引退』が乗るはずである。香織は自宅にはまだ配達されない新聞をコンビニに買いに行った。しかし香織の記事は掲載されていなかった。

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以下、毎章違う人物が主役となります。面白いです。

 

 

 

 

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