鬼はもとより

青山文平 著 鬼はもとより 

 

 面白いです。武士の経済小説ですが、その根底には経済だけではなく、武士としての自負、矜持がバックボーンとなっているのです。

 「奥脇抄一郎」は、北國の上級藩士で、十二歳から始めた梶原流一刀流で取立免状まで進んだ。二十四歳になった抄一郎は女遊びに精を出した。その結果、女後家に腹を刺され、勤めを一月休んだ後、御城に上がれば、馬廻りに自分の席はなく、勘定方に仮設された藩札掛に回された。そこは、抄一郎のように、なにかしでかした者ばかり五人が送り込まれた。

 藩札頭は佐島兵右衛門である。七十歳に近かったが、自ら献策して藩札掛をつくり、頭を拝命したのだ。

 藩は傾きかけた内証を立て直すために、さる大藩からいまの御藩主を養子に迎え入れた。佐島はこの金を三倍にするとし、一両の小判を備え金にして、三両の藩札をするのである。佐島は藩札を成功させる鍵は、札元の選定や備え金の確保といった技ではなく、藩札板行をすすめる者の覚悟、命を賭す腹が据わっていることであるとした。剣にも通じる営為なのだ。戦いである。半端な剣術使いであつた抄一郎が、実務の臣僚となるのである。抄一郎たちは、佐島に『内証が厳しくなると、御重役は藩札を刷りたがる。これは一命を賭しても阻止せねばならん。脱藩してでも藩札の版木は守らなければならん。』教えられる。

 藩札が出回って三年も経過し巷で通用するようになった。生みの親である佐島が逝った。抄一郎が藩札頭となった。五年目に飢饉が起こった。筆頭家老から藩札十割の刷り増しが命じられた。

  抄一郎は版木を持って脱藩した。

 

 

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