山月庵茶会記

葉室 麟 著 山月庵茶会記

 

 大変面白いです。先に読んだ『蒼天見ゆ』より数段面白いです。恐らく葉室 麟の代表作となるでしょう。適度な緊張感をもって、巻末まで一気に読めます。

 「柏木靭負」(ユキエと読む)はかって九州、黒島藩の勘定奉行を務め四百石の身分だったが、妻「藤尾」を三十六歳のおりに亡くしていた。子がなかったので、親戚から松永精三郎を養子として奥右筆頭白根又兵衛の娘で家中でも美貌と噂さていた「千佳」と娶せ、家督を譲ると突然、致仕して京に上がった。

 かって江戸留守居役を務めたおりから茶道に堪能だった靭負は、京で表千家七代如心斎に師事した。ひとに教えることを認められる『安名』を授けられ、江戸へ下った。駿河台に居を構え、茶人として名を高くした。

 靭負は、黒島藩へ十六年ぶりに帰国した。家中で話題となった。靭負は、かって藩を二分した派閥の一方の領袖であったが、政争に敗れ、失脚すると致仕して国を出たからだ。

 養子精三郎を訪ねると、城下のはずれにある、柏木家の別邸に住む了解を求めた。そこを茶室とした。嫁の千佳は、茶の稽古を願い出た。

 千佳の最初の稽古の際、千佳の父親である又兵衛と会うことが決まった。靭負は『雪見の茶事になろう。雪はそそぐとも読む、十六年前の辱めを雪げるであろうか』とさりがなく口にした。

 靭負は三十になって妻を迎えたが、書院番の「牧野平左衛門」の娘「藤尾」という靭負よりひとまわり年下になる見目麗しき人であった。藤尾には怪しからぬ噂がたって、靭負がそれを問い質した。何も答えず、自死してしまうのである。

 靭負は何故、何も言わずに自死したのかを探る為に帰国したのであった。

 

 

 

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