青い目の夫

キュッヒル真知子 著 青い目の夫

 

 ウィーン・フィルというとクラッシック音楽を好きでない人も知っている。毎年お正月、NHKウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートを放映してる。そのウィーン・フィルのコンサート・マスター、「ライナー・キュッヒル」、(今年のニュー・イヤー・コンサートでも弾いていました)の奥さんが日本人であるというのは知っていました。その奥さんが著者です。

 『はじめに』の章で以下のように記述している。

 夫のヴァイオリンの音色により癒された。夫がいい演奏をした時には、至福の時であった。夫がその地位にあるからこそ出来る貴重な体験や素晴らしい瞬間にも出会う事ができた。

 このような内容である事は想定できた。ところが、第一章では驚くべきことが書かれている。不倫の話である。普通、不倫と言えば夫の不倫である。しかしここに書かれているのは、妻(筆者)の不倫である。

 彼(不倫の相手)は、ヨーロッパの富豪の過ごすコートダジュールなどへ連れて行ってくれたりしたが、夫との演奏旅行で経験できるような、素晴らしい演奏に接したり、著名人と会ったり、高尚な話が聞ける、勉強ができるということはありませんでした。

 自分の不倫をここまで堂々と書く人はいないのではないか。男性作家ならともかく、女流小説家でもいないのではないかな。

 第二章では、夫、キュッヒルのコンサートマスターとしての仕事について、第三章では、オーストラリア、ウーィンについて書かれています。『1975年当時の事ですが、夫が率いるカルテットがウーィンのハイソサエティーが行うハウスコンサートに行く。立派な建物、天井の高い素晴らしい空間、広間にはアンティークの家具、きらびやかなシャンデリアの下には、招かれた四十人くらいの紳士、淑女。部屋に流れる音楽、紳士淑女の落ち着いた色合いのエレガントな身だしなみ、すべてが調和していました。これが伝統なのだ。音楽が生活に入りこみ上流社会のパトロンと作曲家、演奏家との深い結びつき、しかし夫を含めた音楽家は彼らの傘下にあり、プロレタリア階級とは大きな隔たりがあるのであります。』。第四章以下はキュッヒルとの出会い、家庭の事、著者の生い立ち等が書かれている。

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 単なる自分の紹介ではなく、一個人として確たる意見を持った女性である。彼女は日本の外交について何とか改善して欲しいと思っている。彼女の友人からも『日本の男性は意見が無くつまらない』と言われる。しかし実際は素晴らしい人も大勢いるのに、それが現れない、意志表示が出来ない、言葉で伝えられないのを残念に思っている。

  『戦後、日本は世界の第一、二位の経済大国になった。油断して、たくさんの頭脳流失、技術提携をした。それを利用し他国がのし上がってきた。これからの日本を担う世代の感覚では負けてしまうのではないか。戦争で後ろ指さされるようなことをしたとしても、その償い十分にしている。戦後六十年以上も経っているのに、なぜ今指摘されるのか。日本人が外国人と対等に外交が出来ない弱さを知り、資源の無いのも知り、日本が貧しい国でないのでを知ったからです。今日の不自由ない生活は、団塊の世代が真面目にことこと働いてきた賜物です。』

 

 

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