師父の遺言

松井今朝子 著 師父の遺言

 

 筆者が師とする武智鉄次との出会いから、死別そして筆者の心に残したものを記している。

 筆者と武智師との出会いは、早稲田大学文学部大教室に於ける講義である。武智師、六十五歳に時である。最初の講義に失望し、二度と教室に顔を出さなかった。それが大学院の三年生(留年している)の時、先生から紹介され武智師に会い、パスしていた講義のテープ起こしであった。

 こうして筆者と武智師は身近になり、筆者は影響を受けて行く。 

 

 印象的な記述です。

 京都の特殊な環境に生まれ育った私は、「文化というもの」に大変鬱陶しい側面があることを、同世代に比してわりあい早くから肌に感じていたほうだろうと思う。それゆえ余計な気をつかって自分が勝手につかれてしまい、結果、面倒な場所からは逃げの一手を打ちやすいという、人間としての根本的な欠点を、武智師にはとっくに見抜かれていた。京都から東京に出て来た時に解放感が得られた。東京での学生生活では余計な気をつかわずに済んだのに、大学院で学界という狭い社会に片足を突っ込んでから、にわかに変な気をつかわされるはめにうんざりしていた。

 

 幼児期に親と離れた淋しさから生じたとおぼしき妄想癖を封印していた。武智師の死で受けたショックがその妄想癖を復活させ、私を直接的な表現者に駆り立てた。

 

 

 

 

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