安政五年の大脱走

五十嵐貴久 著 安政五年の大脱走

 

 著者の作品は多分野に及びますね。時代小説を書いているとは思いませんでした。登場人物は大半が実在ですが、内容はフィクションでしょうね。

 

 

 井伊鉄之介は、十四男である。三男である兄 直亮 は家督を継ぎ藩主となっていた。他の兄弟はすべて他家に養子に行き鉄之介だけが残され、宛がい扶持を与えられ不遇の時を過ごしている。

ある日、江戸藩邸にて鉄之介は極めて美しい女性を見かける。鉄之介にとってこの世のものとは思えなかった。名前を調べてもらい、忠臣を通じて家老に「ひと言でもよい。何とか話だけでも出来ぬものか」と頼んだ。

「鉄之介様、お気は確かか。美蝶様は津和野藩藩主の側室。鉄之介様は部屋住みの身分。歳も釣り合いませぬ。美蝶様は三十路。しかも女の子までおられる」と家老に叱責される。

 それから、二十四年の月日が経っている。井伊鉄之介は井伊直弼と名を改めていた。直弼は藩主となり、今は江戸幕府大老である。そんなある日、江戸城から彦根藩邸に戻る時、大きな大名屋敷の前で女駕籠が停まっていて、そのそばを通り抜けた時、女駕籠から降り立ったその顔が、思いがけない記憶を呼び起こした。二十四年前に、ひと目見ただけで心を震わせ、思いを寄せた女性が時を超えてそこにいた。美蝶の娘であった。

(儂はあの頃と違う)宛がい扶持で暮らしていた井伊鉄之介と、今の井伊直弼とでは立場が違った。どのような無理を押しても、咎め立て出来る者はいない。

 側室にとの希望を、あらゆる方面から伝えたが断りの返事ばかりであった。

 そこから、井伊直弼はどうするのか。とんでもない事をするのです。

 

 

 

 

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